医院事業の承継と分院

医院事業の承継させるための準備期間を作りたい

65歳になり、30年経営している整形外科医院を5年後を目標に勇退しようと思っています。引退するにあたって、二人の勤務医である娘を戻って来させ、医院事業の承継させるための準備期間を作りたいと思っています。
 この地で長きにわたり医院を続けて来たため、地元での知名度は高いです。そこで、その知名度や資産を活かし、準備期間として、娘に勤務医とはちがった医院経営のトレーニングをさせるための分院を出したいところです。

分院開設は個人には認められていません

本事例は経営資源の分配を図り、診療圏の確保や事業承継を行おうとするケースですが、分院開設は個人には認められていません。

医療法人の設立を検討

医療法人には、個人では認められていない分院開設が可能ですので、医療法人の設立を検討しましょう。
医療法人にすると、医院・診療所の管理者を変更し、理事と社員に後継者を加えることが相続対策・事業承継対策となります。このように、医療法人のメリットの一つには医院の事業承継がスムーズに行えることが挙げられます。

医療法人設立のメリット

税金面で有利になる可能性が高いです。個人所得税(超過累進課税率)や住民税が50%を限度に、法人税・法人住民税(実行税率約21%または約35%)と併用することで優遇されます。(参考:平成27年度より個人所得税率は最高45%。住民税と合わせると55%になります。)
 また、個人では認められていない分院の設立が認められることもメリットの一つとなるでしょう。なおこれは、信頼できる医師が確保できること等が条件となります。

院長の所得

医療法人から支給される院長の所得には給与所得控除が適用されます。

退職金の税制優遇

引退時に、退職金を受け取ることができるので、その後の生活を安定させることができます。退職金は所得税の計算では通常の給与として処理されるため、税金面で有利です。

分離課税
退職所得控除
 1〜20年 40万円×勤続年数
 20年超 800万円×{70万×(勤続年数−20年)}
計算(退職所得)
 (その年中の退職手当等の収入金額−退職所得控除額)×1/2

 給与で受け取るよりも退職金で受け取るほうが所得税・住民税をかなり減額できることが右図からも明らかです。

その他のメリット

経費参入可能な支出項目(生命保険料など)が増えます。

経費参入可能な支出項目(生命保険料など)が増えます。
赤字の繰越控除が9年間設けられています。なお、個人では3年間です。
国民年金から厚生年金に切り替わることで、法人に保険料の半分を負担させることになります。そして法人が負担する金額は損金となります。

分院の設立

地域で長年医療に携わる医院は、分院の開設が次のステップの選択肢の一つとなるでしょう。経営が安定していて手元に多くの現金が残っているような場合はなおのこと、検討価値があるでしょう。
 個人では分院の開設が認められていないので、医療法人設立が必要となりますが、これは医療法人設立のメリットの一つとなるでしょう。
 診療所を拡大できたり、共同購入によってコストが削減できることが分院設立の経営的・資金的なメリットとなることが考えられます。
 また、分院設立によりさらに地域のニーズに対応した医療サービスを提供することも可能です。分院にはあえて自由診療に力を入れさせるなど、本院との役割分担をさせることなどが例として挙げられます。
 広域医療法人の認可を厚生労働省から受けるか、別の医師を理事長とする医療法人を新たに設立し、グループ化することで、複数の都道府県をまたがって分院を開設させることもできます。
 なお、分院長として信頼できる医師を確保することが、分院設立の際に極めて重要となります。
 なぜなら、本院と分院の院長が対立し、結果として本院と分院が組織的に機能しなくなるという例が数多くありますが、それは院長との医療方針の違いや人柄が合わないなどの理由から生じていたからです。
 たとえ家族であっても、経営する感覚には違いがあります。借金をしてゼロ(マイナス)からスタートして苦労して医院を大きくしてきた根っからの経営者である院長である親と、勤務医から突然雇われた院長になった医師である子との間には、たとえ家族でも感覚には違いがあるのです。割り切るところは割り切って、歩んできた道の違いから見えるものも異なっている分院の院長をうまく育成することも大切です。
 勤務医と経営者は違うという覚悟を持ってもらうためには、分院長に、給与体系で何らかの工夫を行ったり、分院開設の際の借金の連帯保証人に据えるなども必要となることもあるでしょう。
 このように分院設立には苦労を伴いますが、後継者の医院経営のトレーニングの場として活かすこともやり方次第では可能となります。


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