宅配大手ヤマト運輸の会長を引退後、障がい者の自立支援に尽力した故小倉昌男さんが私財を投じて作ったヤマト福祉財団は、「障がい者も月収10万円」という目標を掲げている。その具体的事業に、2004年に始まった「障がい者のクロネコメール便配達事業」がある。
同財団の押尾美枝子さんによると、地域の授産施設や作業所249か所が委託を受け、全国で914人の障がい者がメール便を配達しているという。大阪府吹田市の授産施設「第三工房ヒューマン」に通う高橋哲央さん(27)もその1人だ。
高校卒業直後、交通事故で脳に障害が残り,
記憶・注意障害に加えて足も不自由だ。3年前にメール便の仕事を始めたころは1日90分しか働けず、2冊の配達が精一杯。それが今では、もう1人の障がい者とのペアで、1日140冊の配達をこなす。
この回復ぶりに、担当した医師は「奇跡」と驚く。また、真摯に働く彼らの姿に、宅配ドライバーたちは勇気づけられているという。
報酬は、障がい者・非障がい者の区別なく1冊約20円。メール便の配達が契機になって、数十名の人たちが一般就労に移行した。
地域の人たちとのふれあいもある。「ありがとう」と声をかけられ、頼りにされれば、働く誇りと喜びが湧いてくる。「ヤマトの仕事ができるなら」ということで、作業所の仕事への信頼も広がり、地域からは他の仕事も持ち込まれる。
障がい者が変わるし、地域も変わっていく。そんな新しい世の中を予感させるメール便の事業である。
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厚生省の障害福祉課長時代、「障害福祉はライフワーク」と思い定めた。以来、約20年。様々な仲間との出会いで感じた確かな未来の手応えと夢を、コラムとして書いていきたい。
あさの・しろう 慶応大学教授、日本フィランソロピー協会会長。1948年、仙台市生まれ。93年、厚生省を退職して宮城県知事選挙に出馬、当選。3期12年を務める。
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