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2008年12月22日

必読!!田中弥生『NPO新時代 市民性創造をめざして』

 田中弥生さんが『NPO新時代 市民性創造をめざして』(明石書店2008年12月1日)を発刊した。さっそく読んでみたが、読み応えがある。私の書評は、別に記すが、ご本人の出版にあたっての気持ちを整理したものを紹介します。
 なお、NPO事業サポートセンターが事務局になり、この本の「出版記念会」を2009年1月30日18:00から、神田・学士会館でおこないます。ご関心ある方は、03−3456−1611まで。


「なぜ、本著を記すのか」
 二〇〇六年に『NPOが自立する日〜行政の下請け化に未来はない〜』という著書を記しました。NPOの財政難を背景に、比較的まとまった資金を得やすい行政の委託事業を増やしてゆくうちに公的資金への依存が高まり、その結果、行政の下請け化が起こっていることを指摘しました。行政の下請け化にはいくつかの特徴がありますが、もっとも気になるのは新たなニーズの発見ができなくなり、NPOの真骨頂である社会的な創意工夫力すなわちイノベーション力が失われてゆくことでした。
 先の著書を出版してまもなく賛否両論の反響がありました。以来、私は自ら提起した問題に対して答えを出すことは自分の責任であると強く感じてきました。
「NPO一〇年の成果と課題」
 NPO法制定から一〇年。今年は節目の年といってよいでしょう。NPO法制定以来、三万六千近い団体が設立されました。他制度のもとに設立された法人数と比較しても、ひけをとらない数です。短期間のうちに大きく法人数を伸ばしてきたのです。
 また、活動面でも実績を積み上げてきています。全国に七〇〇ほどある子育て広場のほとんどはNPO法人です。介護事業者の五%ほどをNPO法人が占めるようになりました。また、従来とはまったく異なる方法でホームレス支援のモデルを提示するなど、新たな問題解決方法やモデルを提示したNPOの活躍もみられます。
 他方で、NPOセクター全体をみると、その内実は厳しいものと言わざるをえません。つまり、多くのNPOが経済的に自立できないのです。年度末に剰余金(収支差額)がまったく残らないか、むしろ負債をかかえている団体は全体の六割以上に及びます。また、企業の「資本」にあたる正味財産がマイナスを示している団体が全体の一五%もあります。
 企業とは意味が異なるところがありますが、それは債務超過の状態にあるということです。年度末になると現金が残らず、たいした資産もないわけですから、翌年度からの活動を維持することさえままなりません。信用力もないので金融機関からの借り入れも困難です。そこで事務局長の給与支払を遅らせたり、理事や職員から借り入れをすることで、活動維持のための現金を確保するという、苦肉の策で活動をつないでいる状況も明らかになってきました。このような状況をかんがみると、NPO法人の数を増やすことよりも、経営力を高め、信頼性を高めてゆくことに政策的な課題が移っているのではないかと思います。
平成一七年一二月よりNPO法見直しの審議が始まり、翌年夏に中間報告がまとめられました。そこで、内閣府担当者を招き勉強会を開いたことがあります。そこに参加したのは三〇名ほどの中間支援組織の関係者の方々でした。そこで交わされた質疑応答は今でも鮮明に印象に残っています。中間報告案が比較的緩やかな内容になっているのに対して、参加者の多くは、「量ではなくて質を求めるべき」という趣旨の意見を述べていたからです。すなわち、NPO法人設立の相談を行っていると、これではとても責任ある法人にはなれないだろうと思われるような人々からの相談が急増しており、最近では法人格取得を思いとどまらせるように助言するケースが増えているというのです。政府側はどちらかといえば現状維持か緩和策をとるべきことを主張していましたので、NPOとの現場の認識ギャップの大きさを目の辺りにする場面でした。

「NPOとは本来なにを目指すものなのか:NPOの二つの目的」
 NPO法第一条の短文に法の基本である二つの目的が記されています。ひとつは「公益の増進に寄与すること」であり、もうひとつは「市民が行う自由な活動の健全な発展」です。前者はNPOが提供する社会サービスの側面をさしており、もうひとつはNPOへの参加を通して人々が自発的に社会貢献活動に参加することを促進するという、市民参加の側面です。
かつて経営学の父と呼ばれたP.F.ドラッカーは、サービスを通して人々の生活の質の向上を目指す側面を人間変革の機関とよび、一方で市民参加の側面は市民性創造の役割を担っていると述べました。NPOの活動はこの二つの目的を両輪として成り立っているのであって、いずれかが欠けても市民が担う公益活動は育ってゆかないだろうと思います。
「市民社会のわすれもの」
 この一〇年間、NPOセクターはこの二つの側面をどのように伸ばしてきたのでしょうか。NPOがサービスの側面に相当量のエネルギーを投じてきたことは明らかです。つまり、事業を発展させ、少しでも多くの受益者の数を増やすことを念頭に、組織の運営と事業について多くのエネルギーを投じてきました。マネジメントや効率性の議論も主としてサービスの側面を伸ばすためのものでした。
 しかし、市民参加による市民性創造の側面についてはどうでしょうか。NPOへの参加形態としてもっともオーソドックスなのが寄付とボランティアです。日本の寄付総額は二〇〇五年で六〇〇八億円ですが、一九九四年から二〇〇五年の一〇年間は横ばいで寄付は増えていないのです。ボランティアは寄付よりは活発です。また、ボランティア以外のかたちでNPOに関わる人々は増えているだろうと思います。とはいえ、日本総体でみるとボランティア数はこの一〇年で増えていないのです。
 NPOの現場を訪ねると、寄付を集めたことがない、積極的に集める計画はない、という意見が圧倒的に多いのが現状です。また、行政の下請け化現象の特徴として挙げられたのが、ボランティアが次第に辞めてゆくという点でした。受託した事業をより効率的に進めるために専門家を雇用し、計画を策定してゆく過程で、徐々にボランティアが阻害されてゆく現象を示したものです。
 募金活動を継続的に行おうとすれば、相当量の資金と人材を投入する必要があります。しかし、そんなお金と人があったら事業のほうに使いたいと思うこともあるでしょう。投じたエネルギーの分だけ寄付が集まるとはかぎりませんし、とくに寄付文化の低い日本においては寄付が集まりにくく、費用対効果が見込めないようにみえるでしょう。また、事業を迅速かつ安全に進めようと思ったら、ボランティアよりも専門知識や技術をもった常勤スタッフに任せたほうが得策だということになります。
 つまり、サービスの側面から捉えれば、寄付とボランティアは非効率にみえることがあるのではないでしょうか。また、NPOが市場での活動に参入するほど、この傾向は強くなってゆくようにみえます。
 とはいえ、この考え方ばかりを推し進めると、NPO法に記されたもうひとつの側面である市民性創造の側面を結果的に軽視することになります。市民性創造の側面は、NPO活動の成果としては見えにくく、また地味な側面でもあります。NPO一〇年、サービスの側面には力点が置かれてきましたが、もうひとつの側面にはさほど注力されてこなかったのではないでしょうか。しかしながら、現代の知識社会においては、「市民性創造」の側面がより重要になるのであり、そこにNPOの未来の可能性があるように思えてならないのです。

「本著の目的」
 NPOの本質に立ち戻りながら、NPOセクター一〇年を振り返ってみたいと思います。まず、NPO全体の財務状況を把握した上で、行政の下請け化や社会的企業など昨今の傾向を振り返り、そしてこの一〇年をどう捉えたらよいのかを考えてゆきます。
 NPOセクターを振り返り総括するためには、基準となる中心軸のようなものが必要になります。それはまさに、NPOとは何か、本来何をするために誕生したのかという本質論を見直すことでもあります。この問題を突きつめてゆくと、戦後55年体制から変わらぬかたちを続け疲弊した日本の市民社会の再生という問題が浮上してきます。そこでは、有権者と政治家の関係の見直しや、知識社会における個人の生き方をも視野に含める必要があります。この市民社会の再編という大きな課題においてNPOは、どのような役割を果たしうるのかについて、お任せ民主主義からの脱却、知識社会における流動する知識ワーカーの視点から説明します。
また、市民性創造をベースにNPOが社会変革の担い手として成長するための戦略は何であるのかについては、寄付戦略、ボランティア・マネジメント、そして戦略策定のめのプランニング、評価について説明してゆきます。
最終章では、NPO政策について論じます。その基本的な考え方は、「正当な手続きのもとに優れた成果を出したNPOに、ヒト、モノ、カネのリソースがきちんと集まってゆくような仕組み」を構築することです。そのためには、これらのリソースと成果が循環するような市場のようなものが作られることが必要ですが、営利企業のように「利益」を中心にその評価が動くようなメカニズムが不在です。そこで、パブリック・サポート・テストという評価制度を提案しました。また、ボランティアなど無償役務が顕在化されないためNPOの活動規模は過小評価されがちでしたが、これを顕在化させ、会計書類に明記する方法も提起しています。
市民性創造という重要な役割を軸に、きらりとひかる「ほんもののNPO」をどう排出してゆくのかは、私たち日本人の民意や民度そのものが問われている問題でもあるのです。


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