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2009年05月21日

書評『NPOは公共サービスを担えるか』後 房雄 法律文化社

 名古屋大学大学院の教授で政治学者であり、市民フォーラム21・NPOセンターの代表理事も務めるNPOリーダーでもある後さんが『NPOは公共サービスを担えるか』を出版した。
 後さんの主張は、政府・行政側が機能マヒに陥りつつあり、これをNPOが担う必然性がある、ということだ。そのためには市民セクターの形成の重要性があると主張する。これに対してNPO界の違う立場からの主張としてNPOが行政の仕事の安易に受託することは行政への隷属をすすめることではないかという見解がある。後ろさんは、これを「ボランタリズムの神話」と批判する。
 
 原理的にいえば、公共サービスは官僚機構によってのみ提供されるのではなく、市民参画型による公共サービスがあってよい。その上に、行政側が財政事情だけではなく、「公平・平等」原理と市民ニーズの多様化が両立せずに「市場化テスト」方向へ舵を切らざるを得ないこと、他方において、主体の側の条件として公益法人制度の改革があり、NPOだけではなく財団、社団、社会福祉法人などとの連携が可能な土俵ができてきている。また、NPO法の施行から10年がたち、NPOの中には実力をつけてきている団体もある。
 後さんは、こうした状況だからNPOは公共サービスを積極的に担うべきだ、と主張する。そもそもアメリカの建国などをみても国家の基礎組織がNPOであり、それを巨大化したものが社会になっているのはないか、というわけだ。
 私は、後さんの以上の主張に賛成である。だから、NPOが指定管理事業者になることも積極的に進めてきた。
 だが、この選択は現状のNPOの水準を見る限り「危険な選択」であることも事実である。後さんが言う「ボランタリズムの神話」を主張する論にも耳を傾けなければならない。私流に危険な兆候を指摘しておこう。
?@NPO自体が行政に媚を売り、その配下でいることに自覚がなく、ぬるま湯につかっている団体が多くあることだ。(行政が自己の論理を実現するために、NPOを支援する場合もある。)
?A後さんも触れているが、行政側が「官尊民卑」の癖を頑固に持っており、NPOを下請け化し、安く使える事業者と捉えていることだ。
 ?BNPO自身のマネジメントとネットワークの能力が弱く、個々の団体が孤立傾向にあることだ。
 ?CNPOの中間支援団体の力量が弱く、個々のNPOを支援できない。
 ?DNPOが中心となって、市民セクターを形成できておらず、社会的な勢力として成立していない。したがって、行政との交渉権を確立していない。
以上5点の克服ができていかなければ、NPOは公共サービスを担うことにはならない。こうした課題を克服する近道は、NPOの中間支援団体を強化し、市民セクターを担える萌芽として成長させることである。
 この際に中間支援団体が最も困るのは、お金と人である。この克服のためには、NPO的な資本の論理(市民債権など)を具体化できる能力を確保するか、後さんがボランタリズムとして批判するボランティアの応援と寄付収入の確保が必要になる。例えば、私が関与しているある県の中間支援団体では資金不足で事業展開ができず、会員が寄付をして「ボランティア基金」(ボランティアの募集・活用にもお金がいる)を確保し、これによって人材を集め、中間支援団体機能を確保しようとしている。この「最初の一歩」を進めることを具体化しなければならない。
 だが、現実は段階論では進まないので、NPOが一部の公共サービス担い、ズタズタになりつつ、他方において市民セクター形成に取り組み、ジグザグにしか進んでいかないのだろう。
本著は、NPOの原理について考えされる問題提起をしている。


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