田中尚輝 の新着情報

2009年06月04日

岡村重夫理論を考える(上)

 社会福祉の理論家である岡村重夫先生(1906−2001)の生誕100年を記念して『岡村理論の継承と展開(全5巻)』の出版準備が進んでいる。大阪市立大学の白澤政和教授(岡村氏の弟子)の依頼を受けて「ボランタリーセクターと公共性」という章を担当した。執筆にあたって岡村の著作を再読したが、なかなか素晴らしい。少し長いので、上下にわけて、私の感想を述べておきたい。

 岡村理論は、「主体的社会福祉」概念と「法律による社会福祉」という問題の立て方が素晴らしく、また、彼が主体的福祉に力点をおくべきだとしている点は注目に値するし、現代的な再評価がおこってよいのではないか。そして、この主体的福祉がコミュニティと不可分なのであるという指摘をしている。
 岡村重夫のコミュニティの規定は、「住民の地域社会すなわち自分の生活の場に対する所属感ないしは帰属意識と共通の目標をもっているために、隣人や地域に対する自然的な共感や協同的行動における個人の役割が自覚せられる」(『地域福祉論』)。この論は、“市民派”といわれる政治学者や社会学者である篠原一、松原治郎などのコミュニティ論と軌を一つにしつつ深められる。
市民派学者の論理の1つは、「権利要求型」市民運動は行政に文句をつけ、「政治の貧困」を指摘するだけでは国民の福祉は向上しない、とする主張である。
松原治郎は、「地域的共通利害」を「普遍主義的利害意識」と「地元主義的利益誘導=特殊主義的利害意識」(『市民と市民運動』)にわけるが、岡村の分類と比較すれば、前者が慈善・博愛、後者が相互扶助につながるであろう。
 権利要求型の問題点は、政府や自治体に対する要求であり、この行きつく先は法律による社会福祉の改編を求める運動でしかない。もし、政府や自治体がこの要求を拒否すれば、何らの改善は成し遂げられないことになる。ところが、自発的社会福祉によって、ボランティア活動を実行すれば、すくなくともその影響が及ぶ範囲においては何らかの変化を生み出すことができる。
1つの事例を挙げれば、在宅介護の支援策である。1980年代においては、行政の支援策も僅かで介護地獄に陥っていた家族がたくさん存在した。この改善は法律による社会福祉によれば、ホームヘルパーの増員や制度改定を行う以外にないが、実際には遅々として進まなかった。そこで、市民は自発的社会福祉の運動をつくりあげるのである。それは市民自らがホームヘルプ活動を担う「住民参加型在宅福祉サービス」というものであって、この多くは有償ボランティアとして実施されることになる。


田中尚輝 の仲間たちの日記

全員 › 日付順

  • 日付順

指定された記事はありません


譲渡 所得| 医療 業務| 会社 株式| 寄附 益| 事業 宅地| 住宅 借入金| 譲渡 土地| 登記 事業| 特定 寄附| 分割 価額| 分割 適用|