田中尚輝 の新着情報

2006年07月29日

書評:『経済が社会を破壊する』(正村公宏、NTT出版、2005)

 本書は日本社会について経済から政治、そして社会システムについての根源的なレベルから問題点を指摘しており、企業家、NPOのリーダー、一般市民の誰もが読んでも、それぞれの立場から得られるものが多い良書です。多分、本書は正村氏の若いころからの理論的な最終整理であり、「遺言」になるではないと感じつつ読みました。正村氏は長い間、専修大学の教授を勤めた人物ですが、私は個人的にも若い時代から師事していただいていました。
 本書で取り上げられている範囲が広いので、私が日常的に関わっている介護保険制度について、正村氏の見解を取り上げてみよう。氏はつぎのようにいっています。「高齢者介護の分野では、全国基準による画一的制度として介護保険が導入されたため、厚生労働省による官僚主義的統制が強められている。同時に、人間と人間の信頼関係を土台とする継続的なかかわりあいによって維持されなければならない社会福祉の事業がこまぎれのサービスの売買へと変質しており、商業主義が浸透しつつある。地域ごとの高齢者人口に対応する財源再配分を中央政府が保証し、事業展開については地方のさまざまな主体による創意ある活動を可能にする分権主義的運営を推進する必要がある。」
 確かに介護保険制度は厚生労働省官僚の支配下にあり、国家統制が強め荒れています。ただ、それ以前の措置福祉制度からすれば、保険者である一般市民の声や要介護者の自己決定権の保障が制度的に組み入れられたことは事実です。ただし、実際には法律の理念のように展開されていません。
このことは、正村氏が指摘するように厚生労働省の支配下で自治体が動く構造に変化がないために、「全国一律」の押し付け、かつ、事業者ごとの細切れサービスシステムになっていることはその通りです。
 氏がいうように自治体ごとの自由な介護設計が必要なのですが、そのためにはつぎのような取り組みが必要でしょう。
?介護保険法の抜本的な改正
?自治体の自主性・自立性の能力の急速な向上
?被保険者の制度依存性向からの脱却
?NPOによるサービスの多様化と提供能力の飛躍的な発展
 正村氏が指摘していることを忠実に実行していこうとすると以上4点には取り組まなければならなくなります。この4月からの介護保険制度の「改悪」によって、この制度の問題点が浮上しており、氏の提起を多くの人々と議論していきたいと思います。


田中尚輝 の仲間たちの日記

全員 › 日付順

  • 日付順

指定された記事はありません


譲渡 所得| 医療 業務| 会社 株式| 寄附 益| 事業 宅地| 住宅 借入金| 譲渡 土地| 登記 事業| 特定 寄附| 分割 価額| 分割 適用|