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2006年10月12日

NPOの危機をどう克服するか?『NPOが自立する日』田中弥生著

 NPO法が制定されて8年がたとうとしている。この間生まれたNPO法人は3万団体近くにもなる。そのNPOは、いま正念場に立たされている。この時期に、現状のNPOを鋭く分析した注目すべき本が出版された。それが、田中弥生著『NPOが自立する日 行政の下請け化に未来は無い』(日本評論社)である。NPOのリーダーや関心を持つ人々にぜひとも目を通していただきたい労作である。簡単に内容を紹介するので、ぜひこの本を手にとってもらいたい。

【内容の紹介】
 著者は、年間収入が500万円以上のNPOを調査し、その事業収入の8割が自治体、中央省庁、独立行政法人、特殊法人などの行政側の資金であること、そして、寄付金収入がゼロのNPOが18・3%、30万円未満は44.5%をしめることに注目する。そして、そうしたNPOの多くが次のような傾向をもつことを指摘する。
?社会的使命よりも雇用の確保、組織の存続目的が上位に位置する。
?自主事業よりも委託事業により多くの時間と人材を投入する。
?委託事業以外に新規事業を開拓しなくなっていく。新たなニーズの発見が減る。
?寄付を集めなくなる。
?資金源を過度に委託事業に求める。
?ボランティアが徐々に疎外されている。あるいは辞めていく。
?ガバナンスが弱い。規律要件が十分に整っておらず、実質的に組織の方向性を定める理事の役割について、あらかじめ組織内の正式合意として共有されていない。また、理事の時間の多くが行政との交渉に投じられるようになり、理事の役割である組織のチェック機能が行政からの委託条件やコンプライアンスを守るための機能になっている。
このような傾向を通じて、NPOが行政の下請け下に走っているのではないか、という警告を発している。
そうした傾向を克服するために、イギリスのコンパクトやアメリカのNPOの活動を紹介し、政府との対等性の確保をどうするのか、協働とその評価に言及している。
 また、NPOの段階的な発展スタイルとして、デビット・コーテンによるNGOの世代論を紹介する。
【第1世代】ニーズ対応型の活動に従事するタイプ
【第2世代】自立に向けた小規模の地域開発への着手
【第3世代】全国レベルの政策や制度を改革への進展
【第4世代】国を超えた制度や障害に取り組むNGO
 このような発展段階に比較して、日本のNPOがどのようなレベルなのかを検討している。これは、自分のNPOがどの段階にいるのかの指標になり興味ある提起である。
そして、著者は、NPOの今後の展望として「民が担う公」の主体としてNPOへの期待を鋭く指摘する。そして、NPOが本来の期待に応えられるようになるために、つぎの2点を提起する。
?寄付や会費、市民に依拠するNPOへつくりかえる。
?本来の意味でのインターミディアリ機能をNPOは持たなければならない。それは、公的資金とNPOのインターミディアリではなく、寄付者、会員、ボランティア、そして技術協力などとのインターミディアリであり、その能力の確保の必要性を提起している。

【感想】
 多くのNPOが青息吐息で活動している。資金的に安定しているように見えるNPOはその収入構造をみると行政依存型であり、本来のミッションをどこかに忘れて行政の下請け事業のみを実施するようになっている。
 ふりかえって、日本社会をみれば、その閉塞状況は深まり、この打開には市民社会の形成をする以外に無く、そのためにはNPOの強化しかありえない。つまり、NPOへの期待の増大とNPOの主体的力量の未成熟という構図の中に私たちは存在している。
NPO法が成立してわずか8年程度であるので、未熟なNPOがこうした状態を迎えるのは必然性がある。NPOは今、踊り場にいる。だが、本来のNPOの役割を果たすために、この段階を通り抜けなければならない。そのためには、NPOの現状をクールに分析し、自らの立脚点を知ることである。
 この時期にタイミングよく本書が出版されたことは、NPOのリーダーや関心を持つ人にとっては幸運であった。ちょっと立ち止まり、NPOの社会的な位置と発展段階を確認してから、新たな活動に取り組もう。


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