田中尚輝 の新着情報

2007年12月07日

新刊『「悪党的思考」のすすめ』のはしがき

 私は08年1月末に、『「悪党的思考」のすすめ』(中央アート出版)を出版します。そのはしがきを紹介します。出版されましたら、ぜひご一読ください。

 混沌とした現代社会を転回させるための必須の条件は何でしょうか。それは先見性をもち、意欲に満ちた多くのリーダーの登場でしょう。リーダーになる可能性をもった人、能力をもった人はたくさんいます。なぜ、そういう人々が翼を広げて世の中に大きく飛び出さないのでしょうか。どうして、リーダーの能力を持つ人がリーダーにならないのでしょうか。それは、社会のさまざまな重圧と人間がもつ本性の挟み撃ちによって頭を持ち上げることができないからです。
 リーダーと呼べる人は、自分個人の利害を第一におく人ではありません。リーダーには、リスクを覚悟して率先して実行しなければならないことがあります。こうしたリーダーを登場させるためには、人間の本性について観察しなければなりません。
 人間の本性には善性があり、他者の利益を考える利他主義を備えています。他方、同じ人間が悪性や利己主義をもっていることも事実です。
 ところで、人間は悪性や利己主義を押さえつつ、善性や利他主義を結びつけるのは簡単なようにみえて、このことを具体化しようとするとたくさんの知恵と莫大なエネルギーがいります。また、単に善性や利他主義を量的に増やしていっても、良い社会にたどり着きません。善性と悪性、そして利他主義と利己主義の複雑な相関関係に変化をおこさせながら、よき社会への着地点につなげなければならないようです。
 このリーダーが成さなければならない課題の組み立てには複雑な思考過程が必要なのですが、そこにソフト・システムを持ち込むともつれた糸が簡単にほぐれることに私は気付きました。それが本書でのべる「悪党」的な思考方式です。悪党で有名なのは楠木正成ですが、彼の実像は「皇国史観」によってずいぶん捻じ曲げられてしまいました。
 本来の悪党は中世において活躍した豪族ですが、当時は現代の「悪」の理解とは違い、「社会からはみでている」「権力に立ち向かう」とか「強い」という意味で使われていました。また、当時の新興勢力とのネットワークを形成し、豊富な情報量をもっていました。このことによって、鎌倉幕府を崩壊へおいつめてしまうのです。 このように、一方において冷徹な計算をし、他方において庶民が持つエネルギーを引き出すことに秀でていたのです。
 また、悪党というのは“自由人”でした。権力に従わず、自らの生活は自力の経済力でおこない、芸能などの新しい文化を取り入れ、全国の情報をくまなく集め、そして、権力と闘ったのです。現代においてはこの悪党たちがしたであろう思考方式と実践が善性と利他主義を推し進めている人々に欠けており、結果としてリーダーの登場を阻害しているのです。本書は人間の善意と利他主義がしっかりとした役割を果たせるためのデッサンをし、それが個人的にも社会的にも実現するための悪党的な思考について述べたものです。
 なお、人はその本性として善性と悪性をもっているのですが、悪党的思考はこの悪性に立脚するものではありません。この考え方は現実の社会の中で「善」と思われている常識が、じつは人間の本性の中にある悪性に立脚している場合があることを暴き、それに依存することを拒否して、多くの人々の「共通善」を実現しようとする企みなのです。
 ところで、現代の日本社会を規定している基本は、資本主義社会であること、そして民主主義という政治システムを採用しているということでしょう。また、資本主義は市場経済を中心に動いており、そこでの自由競争を基本にした生産と取引によって経済が動いています。この市場経済を活力あるものとして展開できるのは、それぞれの人間に「利己主義」があり、それを刺激するからです。
 他方、人間は社会を形成しており、そこでは「利己主義」だけではギスギスしたものになり、その一方、助けあいやボランティア活動・NPO活動という「利他主義」の世界をつくりだしていきます。この利己主義と利他主義の相反する価値観が個々の人間の身体や脳と心の中で闘っており、それがまた社会関係へ反映していくのです。
 善意が活かされず、悪意が優位に立つ場面に私たちはよく出くわします。ことに私はボランティア活動やNPO活動の場で長い間生きており、善意を軸に動いているはずの自分たちの世界が、知らず知らずのうちに悪意に侵食され、とんでもない状態になっていることに気づくことがあります。
 このようなことを整理し、善意が活かされる社会にするためには、一方において人間の本性に迫り、他方において社会改革の手法を確立しなければならないのではないでしょうか。これを実行できるのはリーダーと呼べる人ですが、そこには「悪党」的な思考がなければ課題を解いていくことができないのです。
 この悪党的な論理による展開を、本書においてはNPOや市民セクター論を軸に展開していますが、じつは、この思考方式は意外な効力をもっており、企業や政治、そして行政の世界であっても、また、個人の生き方や人間関係などのあらゆる社会的な場において活用できるものです。本書をきっかけにして、いろいろな分野で悪党的な思考方式が活躍することを期待します。
 本書は、第一章において善性と悪性を人間の本性と社会の関係において整理し、第二章において悪性が優位になる要素を論じ、第三章において、そうした状況における人間と社会の改革の方法を述べています。お忙しい方は、第三章を先に読むことをお勧めします。
 人間の生き方と社会のあり方について真剣に考える人、そして、何よりも現在の、そして未来のリーダーの方々に本書を通じてエールを贈ります。

               田中尚輝


田中尚輝 の仲間たちの日記

全員 › 日付順

  • 日付順

指定された記事はありません


譲渡 所得| 医療 業務| 会社 株式| 寄附 益| 事業 宅地| 住宅 借入金| 譲渡 土地| 登記 事業| 特定 寄附| 分割 価額| 分割 適用|