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2007年12月10日

書評『市民社会創造の10年』(編集:日本NPOセンター、ぎょうせい、07年)

 なんと評価したよいのだろうか。日本のNPOのナショナルベースの中間支援団体の1つである日本NPOセンターが『市民社会想像の10年』を出版した。まったくひどい内容で、これが日本におけるNPO10年の歴史と思われるとがっかりするので一言のべておく。
 まず、本の体裁をなしていない。10人程度の執筆者が分担して書いているのだが、重複があまりに多い。どういう趣旨で分担したのかがはっきりしない。10人分の同じような内容の「随想」が並んでいるだけである。
 もっと悪いのは、NPOの成立の意義やその経過がきわめて一面的であることだ。会議の開催や研究書の紹介を軸にしているが、それはきわめて表面的で、狭いレベルのものでしかない。人脈の一致する人々の動きしかのべていない。したがって、日本のNPOの前史が1990年からしか紹介されないことになってしまっている。少なくとも介護系NPOの前身である「有償ボランティア」による市民参加型福祉サービス団体は1980年から活動を開始しているし、子ども系のNPOの軸になっている「子ども劇場」は1960年代半ばから活発な活動をしている。こうしたグループがNPO法の成立に大きな役割を果たした。また、直接的な立法過程においては「連合」のはたした役割も大きかった。こうしたことには一切触れられていない。歴史的な事実を知らないのである。
 こういうことだから、市民社会形成に関してNPOが果たしてきた役割、そして、今後の課題についての問題意識が一切ない。だのに書名は『市民社会創造の10年』となっている。
 最後に、いま、日本のNPOの中間支援団体は、日本NPOセンターを含めて危機にある。なぜなら、本来の中間支援団体の機能の重要なことは個別NPOの支援である。このためには、社会的諸資源を集約し、それを加工して、個別NPOへ提供しなければならない。また、政府や企業に対して活動の環境形成のための働きかけもおこなわなければならない。こうした中間支援団体としての基本的な役割についても言及がない、という致命的な欠陥があることを指摘しても仕方ないかもしれない。
 ただ、救われるのは最後につけくわえられた鼎談において辻陽明朝日新聞編集員がNPOについてまともな発言をしていることである。
 関連した出版部として、『10年を経て、次の10年を構想する〜日本のNPOセクターの飛躍のために』(市民フォーラム21・NPOセンター、2007)や関西国際交流団体協議会の『NPOジャーナル Vol.19』の方が参考になる。


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