福祉系NPOの課題

事務局長論 ?

これは市民協ホームページに掲載した「事務局長」ノートから転載:事務局長という役職 (2003年7月18日)

私は本年5月のNPO事業サポートセンターの総会において、専務理事・事務局長の役職をおり、常務理事になった。前任の専務理事・事務局長は専任であり、報酬も受けていたが、今度の常務理事は「常務しない理事」であって、無給職であり、会議への出席と担当部署の仕事をすればよく、だいぶ肩の荷がおりた感じがしている。このNPO事業サポートセンターに専任であった時から市民協の事務局長は兼任していたが、6月からは市民協事務局長に専任、報酬を受けることになっている。
 さて、「事務局長」という役職であるが、これはNPO法人の場合にはきわめて重い責任をもつ(詳しくは『NPO事務局長論』(田中尚輝著、NPO事業サポートセンター発行)。通常は、会長や理事長がおり、ナンバー2が事務局長になるが、組織のマネジメントの責任者は事務局長であり、そのNPO法人のミッションをしっかりと理解し、事業の推進と組織の運営についての責任をとることになる。
 事務局長の仕事を分解すると、
?(事業推進)いくつかある事業の推進、進行のチェック、問題点があれば修正
?(組織の運営)3つの対応をしなければならない。1つは、理事対策であり、有能な、しかし忙しい理事にたえず協力をさせていくための情報提供や相談をしなければならない。2つは、事務局員のコントロールであり、3つには会員や支援者、ボランティアメンバーが満足して活動できるような環境作りである。
?(財務)毎月の資金繰りから、資金管理、そして収入増大のための努力をしなければならない。
 このような仕事であるから、事務局長は自分の組織に全身全霊を注がなければ上手に運営していくことはできない。したがって、事務局長を1つ以上引き受けることには無理がある。私の場合にも、これまではNPO事業サポートセンターに比重がかかり、市民協については手を抜くことになっていた。このことがわかっていたので、この2つのNPOを同じ部屋に置くように工夫したものの、凡人では2つのNPOの事務局長を立派にこなしていくことは難しい。
 市民協事務局長に専任するにあたって、去っていくNPO事業サポートセンターの専務理事に、私より能力が高く、仕事に専念できる人に白羽の矢を立て、何度も頭を下げて就任していただいた。そうしなければNPO事業サポートセンターが混乱するからだ。
 そして今、私は市民協事務局長に専念して、市民協と福祉系NPOの発展のために存分の働きをしたいと張り切っている。
 市民協は昨年度からNPO事業サポートセンターが行う「NPOマネジャー通信研修」を実施することに協力している。これからNPOが発展するにあたって事務局長の役割はますます重要になると思う。今年度も市民協は全面的に協力する。会員の皆さんには案内パンフレットが届くので、団体のリスクマネジメント・発展のためにも、立派な事務局長をつくりだすためにも、この通信研修を大いに活用してみたらどうだろうか。
& </FONT>(市民協事務局長・田中尚輝)

事務局長論?

 事務局長ノートより:毅然としたNPOへ(介護系NPO法人の課題)   (2003年8月14日更新)

PO法人による介護保険サービスの事業所数が2200箇所を超えました。当初(2000年4月)には、539程度でしたから、3年と少しで4倍にもなったわけです。また事業所の増加だけではなく、年間の総収入についても、いずれも増加傾向にあります。このことは、NPOによる介護保険サービスが多くの人々に受け入れ始められてきていること、そして、それぞれのNPOがしっかりとした努力をしていることの反映だと思います。
 
他方、こうしたNPOに危険な傾向が現れているのも事実です。その1つは、行政への依存の傾向であり、もう1つは拝金主義とでもいえるものです。これは次のようにも言い換えることができます。行政に媚を売っている、あるいはボランティアの精神(世のため人のため)を全く忘れ、お金の魅力にひかれることです。そして、そのどちらにも共通することは、NPOの使命である「当事者の人間的な生活の支援と生活向上」を第一義的に考えることを放棄していることです。

NPO法人は、人々が自発的に「世のため人のため」の事業を起こしていくことであって、このことは既存の法制度ではできなかったことを実施し、誰もが人間らしい生活ができるようにすることです。
 
考えてみれば、これまでの行政サービスや企業がしっかりとしていれば、何もNPOが登場することはなかったし、私たちも苦労をして活動を開始することはなかったのです。ですから、NPOの役割は行政にできないこと、企業が取り組まないことに手をつけることであり、このためには行政や企業の子分になってはならず、自立・自律していなければならないのです。

ところが、NPOという制度が生まれ、急速にその数と力量が高まる中で、当然にもこれまでの社会を牛耳ってきた行政や企業に警戒心が生まれてきます。また、NPOの活動は始まったばかりですから、「世の中の常識」は既存の行政の論理、企業の論理の力が強く、未熟なNPOがそれに引きずられてしまう傾向にあります。

この傾向は次のような現象として現れます。

?行政の意向を重視し、要介護者などの当事者の利益を従たるものとする。
 たとえば、今年4月からの介護保険の新しいサービスとして開始された「乗降サービス」の新設について、NPOは行政の間違った指導に振り回されなかったでしょうか。また、行政側に従順になる間違ったケアマネジャーのケアプランについて疑問を出して訂正させたでしょうか。

?収入額が大きい事業を中心にし、収入額の少ないたすけあいやネットワークを軽視する。
 たとえば、介護保険事業以外のたすけあい事業を発展させるためにどれだけのエネルギーを発揮したでょうか。またNPOやボランティアのネットワーク形成に力を注ぎ、要介護者のためのシステムづくりにどれだけ貢献したでしょうか

多くのNPOにとって、多かれ少なかれ、このような傾向が内在しているでしょう。NPOのリーダーは、このような危機が組織の内部において大きくなることを阻止して、あるべきNPOの活動を維持・発展させなければなりません。

こうした危険な動きの究極の事態が、NPOの「社会福祉法人化」です。この選択は、NPO法人よりも税制上の優遇措置がある、また、行政からの依頼を受け、そのほうが事業展開にとって有利になると判断し、NPOのリーダーが自らの法人のあり方として、NPO法人を放棄して、社会福祉法人を選択するのです。

これは決定的に間違っています。

まず、社会福祉法人はこれまで措置福祉の実戦部隊であり、行政の強いコントロールのもとでサービスをすることが前提になります。これに対して市民参加による福祉サービスの提供が重要と考えた私たちは、その方式としてNPOというシステムを作り出したわけです。つまり社会福祉法人を選択するということは、NPOが選択してきた道に逆行することなのです。

次にこの選択の誤りは、公益法人全体の見直しが進み、ここ数年の間で社会福祉法人についても税制の優遇措置がなくなることを知らない刹那的な選択であるばかりか、NPOが切り開こうとしている市民の自由な社会参加によって日本の古い法人制度を変えていこうとする動きに敵対するということです。

確かにNPOが歩もうとする道は困難の連続といってもよいでしょう。しかし、それに負けるわけにはいかないのです。なぜなら、NPOは当事者へのサービスを提供し、そのことによって生活を向上させ、社会改革をしているのであり、その原点を忘れれば日本社会の改革は遅れ、そしてNPOの存在意義もないからです。

以上のようなNPOをめぐる危険な傾向を一言で言えば、「NPOの第2社協化」ということです。
 
今こそNPOの原点を見直し、毅然としてその本来の道を歩んでいきましょう。

事務局長論?

事務局長ノートより:NOTE3 信頼されるNPO法人の条件 (2003年9月19日 更新)

最近、いくつかのNPO法人による介護保険事業者の指定取り消しや、利用者からの告訴という事件が起きている。すでにNPO法人の指定事業所が2300箇所にもなっているので、今後もこのようなことがゼロになることはないだろう。だが、NPO法人の事業所がこうしたことで話題になるのは、NPO全体の評価をさげることになり、「自分のところだけは大丈夫だ」ということだけでは片付かない問題なのではなかろうか。
こうした事件には二種類あって、ひとつは最初からNPO法人を利用して詐欺まがいに不正請求等をする場合であり、これはNPO法人の認証についての入り口を広くしているために手の打ちようがない。だが、NPO法人の介護保険事務者の評価を都道府県ごとの単位で作れば、限りなくゼロに近づけることはできるだろう。もうひとつは、NPO法人として善意なのだが法令遵守についての意識の低さや介護技術の未熟さから起こるものである。このことについては、NPO法人同士の協力や市民協の活動を発展することによってその多くは阻止できるはずである。このために市民協では『NPO法人のための「自己評価診断票」(訪問介護事業編)』(A4版横全60ページ、1部定価1500円+送料210円)を作成し、現在は『NPO法人のための訪問介護業務マニュアル(ホームヘルパー用)』(仮題)の完成に取り組みつつあり、また全国各地での研修会を実施している。
こうした折、9月12、13日に札幌でNPOのリーダーが集まり、「信頼されるNPOの条件」というテーマで議論した。この条件をわかりやすく、かつ7つの条件にまとめようというのである。この討議は福祉系NPOに限ったものではなく、17分野すべてのNPOに当てはまるものを想定している。私もこの会議に参加したが、最終的なまとめには少し時間がかかるが、私の主観で報告しよう。たくさんの意見がでたが、ポイントはつぎの3つである。

1.ミッションと事業としての具体化
まず、誰でもNPOを設立するときになんらかのミッション=志はもっていたであろう。自分の志を実現し、困難を抱えている人、困っている人の支援をしたいという気持ちでNPOをはじめたはずである。ところが、時間の経緯とともに目前の活動に追いまくられ、資金繰りや人事問題に精力をそそぎ、本来のNPOとしての役割に目が向かなくなってきている団体やリーダーが多くいるのではないだろうか。
また、志=ミッションは現実のものとしなければならない。パンフレットに書いているだけ、演説のときに言うだけではなく、現実の社会を変えていなければならない。そのようになっているだろうか。

2.NPO法人の活動がボランティアによって支えられているか
 もし、NPO法人がミッションに基づき「世のため、人のため」の活動をしているとすれば、そこには多くのボランティアによる活動の輪が広がっているはずである。
 福祉系NPOでいえば、介護保険サービスだけでは人間として生きていくことのできる十分なサービスは困難であるから、これにボランティアによるサービスが加わらなければならない。つまり、NPO法人には介護保険サービスを実施する労働者としてのホームヘルパーだけではなく、ボランティア(たすけあい)によるサービスの提供に参加する人々が多くいなければならない。これがなければ、介護保険サービスを営利事業者として実施すればよく、わざわざNPO法人にすることはないのである。したがって、NPO法人にあっては、少なくとも介護保険サービスの提供時間と同じ程度の時間について、ボランティアによるサービス提供時間がなければ不健全だと言うしかない。
 このことは、どのように現実化するのか。それは、専任(有給職員)の少なくとも10倍以上のボランティアメンバーを抱えているということである。このような組織に介護保険を遂行するNPO法人がなっているであろうか。

3.専任職員の配置
福祉系NPO以外の団体からは、NPO法人としての最低の条件としては専任職員の配
置であるという意見がでた。この点は当然のことであり、福祉系NPOについてはクリアしている団体が多い。
 だからこそ、福祉系NPOは多様なNPOの中核として、1と2の条件、ミッションの具体化とボランティア活動の発展を支えているのか、ということが問われるのである。

事務局長論?

事務局長ノートより:NOTE4 リーダー必読!『介護系NPOの最前線』 全国トップ16の実像〜』を発刊

☆リーダーのあなたは、「NPOの介護保険サービスは企業とどこが違うのか」という質問に答えられますか?  

 この度、『介護系NPOの最前線〜全国トップ16の実像』を浅川澄一日経新聞編集委員、安立清史九州大学助教授との共著でミネルヴァ書房より出版しました。
 これはNPO法人であって介護保険事業を実施している団体の年間の売上高をトップから16団体(そのほとんどが市民協会員団体です)を取材し、また、全体の介護保険事業への参加団体の傾向を分析し、その役割や今後の課題を整理したものです。その中で私が担当したのは、?介護保険制度におけるNPOの法人の役割、?介護系NPOが抱える理論上、マネジメント上の問題点の整理、?NPO全体の中における介護系NPOの課題をまとめることでした。その中身はお読みいただくとして、本書の執筆にあたっての私の問題意識は次の点にありました。

1.NPOの軸は介護系NPOであり、NPOが日本社会において成功するかどうかは介護系NPOの挑戦と実績にかかっている。
2.介護系NPOは、地域社会における介護ネットワークの軸(主導的な担い手)にならなければならない。
3.しかし、介護保険という新しい事業に参入したNPOには、お金価値に流される危険性も持っている。
4.このためには、NPO法人として介護保険事業に参画する理論的な整理を行い、モデルになる団体を多くつくりださなければならない。
5.そして、その実施をしていく団体としてNPO法人市民福祉団体全国協議会を強化していかなければならない。

以上の問題意識を私がなぜ持つのか、について以下に解説します。

 現在NPO法人は1万2500団体にもなり、1か月に400団体も新しい団体が生まれています。量とすればすごいことなのですが、その実態は寂しいものです。それは、NPO法人の予算をみるとわかります。年間の予算が1000万円をこえている団体はなんと3割しかなく、専任の有給職員を置いている団体は4分の1にしかすぎません。つまり、団体としての基礎条件を整えているNPO法人は全体の3割弱(大よそ4000団体)でしかないということです。そして、この内の1000団体程度が介護系NPOです。つまり、NPO法人の中では介護系NPOは中心的な役割を果たさなければならない位置にいるということです。この事実が意味するのは介護系NPOがNPOとして抱えざるをえないさまざまな課題について最初に当面せざるをえず、そこで成功しなければNPO全体へ波及するということです。
 そして、NPOの社会的な役割を多くの国民が実感として知ることになるのは、NPOの活動(サービス提供)によって生活の状況がどの程度改善されたのかということであり、このためには自分が所属する団体の活動だけではなく、地域福祉ネットワークの担い手としての役割も同時に果たさなければならない、ということです。

 以上の2点について成果をあげるためには、一定の収入と専任職員の配置が基礎的な条件となるでしょう。その収入を介護系NPO法人は介護保険事業への参加によって得ることができました。ところが、NPO法人には収入を得られるものの、逆にお金の論理による堕落の危険性も同時に持つことになったのです。このことはNPO法人にとっては当然のことなのですが、本来事業と収益事業の整理、同一組織内における「水と油」の調和をどのように図るのかというきわめて困難だが、越えなければならない課題に当面したということです。
 率直に言って、一部の介護系NPOはお金の論理にひっぱられ堕落の傾向がみられます。これがもっとも分かりやすいのは、介護保険事業と枠外のたすけあい事業の時間的比率です。たすけあいのサービス提供時間が介護保険事業によるサービス時間より少なければ危険信号がともったということなのです。また、財政的に余裕がでてきているにもかかわらず、地域福祉の向上にどれだけ力を割いているのかという点をチェックするとお寒い状況にある団体が少なからず存在します。
 このような介護系NPOがかかえる課題を克服するためには、強烈なリーダーシップの発揮が不可避です。このことをリーダーが自覚しないと介護系NPOは社会的に意味ない存在に化してしまうことになります。なぜなら、一般のメンバーは現実の社会の常識である「お金価値」優先の意識に支配されていますから、これに打ち勝つにはリーダーの考え方がよほどしっかりしており、実践の上で具体化できる能力をもたなければならないのです。
 介護系NPOのリーダーは当面する仕事の多様さや多忙さに自己を埋没させることなく、「なぜNPOとして介護保険事業に参入しているのか」ということをたえず自己に問いながら活動をすすめることです。本書はそのための考える糸口を与えてくれるはずです。
                                     (市民協事務局長・田中尚輝)

▼ 市民協事務局より
市民協での在庫がなくなってしまいました。お買い求めは書店にてお願いいたします。

事務局長論?

事務局長ノートより:NOTE5 移動サービスと「特区」 (更新日 2003年10月9日)

移動困難者をささえる運動は、市民の白ナンバーによるサービスとして、当初は障害者支援からはじまり、その後、高齢期の要介護者の支援としてひろがった。そして、現在では全国で2500の市民団体が白ナンバーによる移送を実施している。つまり、道路運送法の違反を公然としている団体が多く存在し、法が骨抜きになってきているのである。こうした状況を踏まえて、道路運送法を所管している国土交通省は白ナンバーによる有償サービスを現行の「黙認」から、公然と認めるために「ガイドライン」の作成に取り組んでいる。このような時期に、飛び出してきたのが本年4月からの構造改革特区の動きである。
これは小泉首相の進める構造改革の目玉として自治体が現行の法制度を超えて実施するものである。その中に白ナンバーによる有償移動サービスを実施できるようにするための特区も参入している。この問題を市民互助団体としてどのように考えるべきであろうか。
まず、日本の法制度の体系は、移動サービスにかかわず、すべてが規制だらけであって民間の自由な活動が阻害されており、この改革は不可欠な課題である。また、一方ではこの状態を利用(悪用)して、官と民間との露骨な癒着もみられる。このような悪弊の犠牲になってきたのが移動困難者である。自力で移動できない人にとって、現行の公共交通の体系では行きたいところにいけない状態になっており、日本は移動の自由のない国になっている。そこで、特区に指定された自治体の範囲において「条件付き」で道路運送法を拡大解釈し、白ナンバーにおいても料金をとれるようにし、移動サービスができるようにしようとするものである。
ところが、この特区の基本的な問題点は、日本人に移動の自由を認めない道路運送法をベースにしていることである。したがって、1.乗者限定(障害者、要介護認定者に限る)、2.車両限定(福祉車両に限る)、3.運転者限定(二種免許、ないしはそれに類する者)という過剰な限定をつけている。
市民互助団体にとっては、利用者の移動の自由を保障するために白ナンバーによる有償サービスの実施は不可欠なサービスである。であるならば、NPO法人、市民互助団体は「特区」に手をあげて参画すべきなのだろうか。必ずしもそうとはいえないのである。市民互助団体サイドからの「特区」対応は、次の点に留意しなければならない。

(1)特区は道路運送法の枠内での発想であるので、ここから自由な移動サービスにつながるものではない。したがって、もろ手をあげて市民互助団体が参入すべきものではない。

(2)ただし、特区を通じて現行の制度の問題点を明らかにし、国土交通省が制定しようとしている「ガイドライン」の条件を緩和するための戦術として活用すること、また、この問題を社会的にアピールすることについては意義がある。

(3) そして、この特区への取り組みは、道路運送法を超えたレベルの自由な移動ができるための「基本法」をつくる運動へと連動できるように実施していくことであろう。

 つまり、多くの特区での実験は既得利権が絡みあった規制の網の中から抜け出せずに意味のない実験に終わることになるだろう。このおなじ轍を移動サービス「特区」は踏むことなく、長年の市民団体の努力により、道路運送法の「黙認」から脱却し、利用者の視点にたっての自由な移動サービスができる方向につなげるかどうかである。国土交通省は「ガイドライン」を出さざるを得ないところにきており、この動きを特区における実験によって足踏みさせてはならないのである。

                                             

 移動困難者をささえる運動は、市民の白ナンバーによるサービスとして、当初は障害者支援からはじまり、その後、高齢期の要介護者の支援としてひろがった。そして、現在では全国で2500の市民団体が白ナンバーによる移送を実施している。つまり、道路運送法の違反を公然としている団体が多く存在し、法が骨抜きになってきているのである。こうした状況を踏まえて、道路運送法を所管している国土交通省は白ナンバーによる有償サービスを現行の「黙認」から、公然と認めるために「ガイドライン」の作成に取り組んでいる。このような時期に、飛び出してきたのが本年4月からの構造改革特区の動きである。
 これは小泉首相の進める構造改革の目玉として自治体が現行の法制度を超えて実施するものである。その中に白ナンバーによる有償移動サービスを実施できるようにするための特区も参入している。この問題を市民互助団体としてどのように考えるべきであろうか。
 まず、日本の法制度の体系は、移動サービスにかかわず、すべてが規制だらけであって民間の自由な活動が阻害されており、この改革は不可欠な課題である。また、一方ではこの状態を利用(悪用)して、官と民間との露骨な癒着もみられる。このような悪弊の犠牲になってきたのが移動困難者である。自力で移動できない人にとって、現行の公共交通の体系では行きたいところにいけない状態になっており、日本は移動の自由のない国になっている。そこで、特区に指定された自治体の範囲において「条件付き」で道路運送法を拡大解釈し、白ナンバーにおいても料金をとれるようにし、移動サービスができるようにしようとするものである。
 ところが、この特区の基本的な問題点は、日本人に移動の自由を認めない道路運送法をベースにしていることである。したがって、1.乗者限定(障害者、要介護認定者に限る)、2.車両限定(福祉車両に限る)、3.運転者限定(二種免許、ないしはそれに類する者)という過剰な限定をつけている。
 市民互助団体にとっては、利用者の移動の自由を保障するために白ナンバーによる有償サービスの実施は不可欠なサービスである。であるならば、NPO法人、市民互助団体は「特区」に手をあげて参画すべきなのだろうか。必ずしもそうとはいえないのである。市民互助団体サイドからの「特区」対応は、次の点に留意しなければならない。

(1)特区は道路運送法の枠内での発想であるので、ここから自由な移動サービスにつながるものではない。したがって、もろ手をあげて市民互助団体が参入すべきものではない。

(2) ただし、特区を通じて現行の制度の問題点を明らかにし、国土交通省が制定しようとしている「ガイドライン」の条件を緩和するための戦術として活用すること、また、この問題を社会的にアピールすることについては意義がある。

(3) そして、この特区への取り組みは、道路運送法を超えたレベルの自由な移動ができるための「基本法」をつくる運動へと連動できるように実施していくことであろう。

 つまり、多くの特区での実験は既得利権が絡みあった規制の網の中から抜け出せずに意味のない実験に終わることになるだろう。このおなじ轍を移動サービス「特区」は踏むことなく、長年の市民団体の努力により、道路運送法の「黙認」から脱却し、利用者の視点にたっての自由な移動サービスができる方向につなげるかどうかである。国土交通省は「ガイドライン」を出さざるを得ないところにきており、この動きを特区における実験によって足踏みさせてはならないのである。


事務局長論?

NOTE 6  「利他主義」と「利己主義」(その1)〜たすけあい活動と介護保険〜

○利己と利他
 「利己主義」と「利他主義」という言葉があります。利己は自分個人の利益のために動くことであり、利他は他者の利益のために動くことです。この2つの対立した人間の行動原理は、1人の人間に2つとも備わっています。一般論でいうと現実の社会は利己主義が軸になって動いており、普通の常態の人間はこの方向に引きつられるのです。
 ところで、NPO法人は公益法人ですから「世のため、人のため」に活動をするために存在しています。したがって、各NPO法人の活動は「利己主義」ではなく、「利他主義」によって貫かれていなければなりません。しかし、NPOに所属する会員の個々人は利己主義の強い社会において生活をしているわけですから、よほどNPOのリーダーが指導性を発揮しないと組織のテーマである利他ではなく利己主義の論理に引っ張られるのです。
この利己と利他をテーマにしてNPO法人に必要なことを何回かにわけて書いていきます。

○「介護保険事業」の危険性
 介護保険の事業はNPO法人にとって「本来事業」=公益事業として位置付けている団体が多いのです。そして、NPO法人は本来事業を軸に活動する法人ですから、介護保険事業のみを実施するNPO法人があっても法律上の違反ではありません。しかし、他方、介護保険事業は税制上の位置付けは収益事業です。事実、介護保険事業の実施によって利益をあげることもできます。ですから、介護保険事業をNPO法人として本来事業として位置付けていても、それだけの事業しかしていないとすれば、そのことは株式会社や有限会社でも実施できるわけですから、収益事業のための団体であり、「エセNPO法人」と規定してよいのです。
 そうだとするならば、NPO法人は主たる事業を本来事業=たすけあいにおかなければならないわけですが、この場合の「主たる」ということは何をもって主たるになるのでしょうか。もし、NPO法人の収入の割合とすれば、現状の介護保険法事業の指定を受けているNPO法人にあってはそのほとんどが「主たる」の限界を違反しているでしょう。多くのNPO法人の中で介護保険の収入が6〜9割になっています。つまり、NPO法人の収入の割合によっては客観的な基準にならないのです。
 つまり、主たる事業は収入の割合によってのみはかるものではなく、NPO法人が何に力点をおいて事業を実施しているかでしょう。ただ、これについて主観的に「たすけあい事業」に軸足をおいているといっても客観性を持ちません。そこで誰もがわかる基準が必要になります。それは活動量をはかることのできる基準であって【活動時間】と【有給職員とボランティアとの人員比】でしょう。つまり、NPO法人の介護保険事業者は介護保険事業に費やす時間と比較してたすけあいを中心とした本来事業のための活動時間をそれ以上にしなければならない、あるいは、介護保険等に従事して労働賃金をうけるメンバーの10倍以上のボランティアがいなければならないのです。後者の人数比が基準となるのは、NPO法人の活動が単純に時間に換算できない活動があるからです。そして、賃金労働者の10倍としているのは、ボランティアの活動時間の平均は週に4時間であり、その10倍が40時間となり常用雇用の人の労働時間に匹敵するからです。ですから10倍を確保していれば、その団体のボランティアの活動量は収益事業と同じエネルギーをもっていると言ってよいのです。

 ところで貴方の団体はこの基準にあっているでしょうか?次の下線に数字をいれてみましょう。
?介護保険事業の提供時間数 時間<たすけあいの時間数 時間
?賃金労働者数×10=    人 < ボランティア数      人

 さて、貴方の団体は、??のどちらかで右辺の方が大きいでしょうか?もし、どちらも小さいとしたら、危険信号です。なぜなら、貴方の団体は「世のため、人のため」の活動より収益事業に力点を置いていることになるからです。
 そして、そのような状況は、まずNPO法の立法の精神に違反しています。つまり「特定非営利活動を主とした事業」にあてはまらないからです。つぎに、こうした活動を続けていくとメンバーの中の「利己主義」が「利他主義」より勝り、「お金価値」が優勢になったり、当面する利益に目がくらみ社会福祉法人になろうとするのです。

事務局長論?

NOTE7   移動サービス「ガイドライン」について大詰め (2003年11月17日更新)

11月12日付の朝日新聞に国土交通省の「ガイドライン」についての予測記事が出ていました。それによると、これまでの交渉で暗礁に乗り上げていた「福祉車両」限定ではなく、セダン型についても認める方向ということです。市民協に集まる団体の多くは、その移送の8〜9割程度までセダン型であり、これを「福祉車両」に限定すると8〜9割の人が移送できなくなるわけです。
 市民協は11月7日に企画理事会(「在京の理事」により構成)を開催し、国土省への申し入れをすることにしました。そして、この申し入れが効果をあげるように団体の署名を、さわやか福祉財団や社団法人長寿社会文化協会(WAC)と協力しておこなう予定です。

事務局長論?

NOTE 8 「市民協、国土省へ申し入れ」〜ガイドライン策定にあたっての要望〜

市民協、国土省へ申し入れ

市民協は、11月17日に国土交通省へ「ガイドライン」についての「要望書」を提出しました(その全文は下記に掲載します)。申し入れには、関口幸一旅客課長、岩渕篤新輸送サ−ビス対策室室長、田中専門官の対応があり、午前11時〜12時半までの長時間の意見交換を行いました。市民協サイドは坂口理事と田中事務局長、それに福祉交通支援センタ−の伊藤さんが同席しました。意見交換から受けた印象では、ガイドラインの策定が最終段階にあり、市民協等への申し入れについての理解もされている感じでした。ただ、タクシ−会社等への理解を求める必要があること、そして、道路運送法80条の範疇であること、「安全性」の担保が絶対条件であるということでした。したがって、朝日新聞報道は予測記事であり、決定したものではないとのことです。また、ガイドラインの提示される時期は「来年2月頃」ということです。
市民協としては、移動困難者の移動支援をセダン型でも自由におこなえるようにガイドラインがでるまでなお力強く要請行動をおこないます。このためにボランティア団体、NPOの署名活動を大々的に実施しますのでご協力をお願いします。また、それに対応するために団体の自主的な取り決めとしての安全性の担保や保険についての十分な対応が必要です。

事務局長論?

NOTE9  「NPO法の施行から5年、現状を検証」(日本消費経済新聞12月15日)

シンポジウム「NPOの過去・現在・未来」
                           〜NPO法施行から5年、現状を検証〜

NPO法の施行から5年。NPO/NGOに関する税・法人制度改革連絡会は12月1日、「NPOの過去・現在・未来」と題し現状から課題を整理し、今後を展望するシンポジウムを開催した。   
 シンポジウムではまず、日本NPOセンタ−の山岡義典理事が、NPO法の意義を再確認。「市民活動団体などの民間非営利組織が官庁の枠組みとは関係なく、簡単に非営利法人格を取得できるようになったことで、ボランティア精神と事業性を兼ね備えた活動が促進されるようになった。」とその意義を述べた。次にNPO法人市民福祉団体全国協議会の田中尚輝事務局長は、福祉関連NPO法人の団体の2割程度が収益のある介護事業しか扱わないという現状の問題点を報告。そして「行政制度だけで、高齢者が人間的な生活を送ることは難しい。利益に結びつかない、ボランティア精神に基づくサ−ビスがどこまでできているかでNPOの真価が問われる。」と力説。非課税となっている社会福祉法人との競合も例にあげ、「営利企業や社会福祉法人とは違うNPOの存在意義を示す活動が必要。」と訴えた。そしてシ−ズ=市民活動を支える制度を作る会の松原明事務局長は、「新しい活動をしているところがどんどん参入してくることは大きな成果だが、次々と課題が生まれている。」として5年間のNPO法人の推移や様々な課題を検証したうえで現状の新たな課題を指摘し報告した。
 パネルディスカッションでは、活動分野や設立の経緯などが全く異なるNPO法人から活動や法人化したことの利点、課題などが報告された。このあと、行政との協働、助成金、税制の問題などを論点に自由に意見交換がおこなわれた。
 NPO法の施行から5年経過しNPOの存在は広く社会に認知され浸透してきている。同時に数々の課題も生み出されてきている。その課題にどのように対処していくのかNPOの真の存在意義が今試されている。


田中尚輝 の仲間たちの日記

全員 › 日付順

  • 日付順

指定された記事はありません


譲渡 所得| 医療 業務| 会社 株式| 寄附 益| 事業 宅地| 住宅 借入金| 譲渡 土地| 登記 事業| 特定 寄附| 分割 価額| 分割 適用|