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2006年10月24日

[アメリカのNPO第4弾] AARPのマネジメント

 AARP本部での3人のレクチャー、メリーランド州事務所での意見交換を通じ、かつ、日本でのNPOの活動やアメリカでのNPOの活動家との意見交換を通じてNPOのマネジメントについて一般化できそうなことを、今回のアメリカ訪問を通じて個人的な観点からメモします。

[ミッションと戦略の重要性]
 AARPはアメリカの一般の人からは2つの評価を得ています。1つは、シニアのためにメリットを提供し、かつ、立法(政策の形成と実現)について効果的な役割を果たしているという評価です。他の1つは、巨大な組織であり、何をするかわからないという警戒感をもつ評価です。これらの評価をAARPは意識しているわけで、それを前提として自らのミッションを達成するためにAARPはどのようなことを実行しているのでしょうか。
 まず、AARPは戦略の大転換を行い、その実施の最中にいるという認識を指導部はしています。その戦略の転換を実行に移すためにAARPはつぎのような取り組みをしているように私には感じられました。
?ブーマー対策を実施することによりAARPをますます  巨大化させる
?グラスルーツ方式を大切にし、AARPだけではなく、会 員以外のシニア個人とシニア団体、そして他世代であ る若者をも取り込む
?AARPは、その会員数の巨大さだけで政策課題を実現さ せるのではなく、知恵とソフトによって効果的な活動 をし、AARPの孤立化を避け、目標の実現可能性を高め る
 このためにグローバル化をすすめ、他国の状態を研究し、連携の必要な場合には積極的におこなう姿勢をとろうとしています。たとえば、ロングタームケア(長期介護)、医療保険、年金については日本を注意深く分析していました。ですから、日本政府がとっている解決策(ソリューション)については参考にしているようです。
 ただし、このようなAARPの政策決定について、最も大事にしているのはAARP会員の意識や意見であり、これは慎重にサーベイしています。

[NPOと企業との関係]
 AARPはNPOであり、ミッションは50歳以上の人々の社会的な福祉サービスを受容する権利を擁護する団体であり、内国課税庁の501C-4(教育、情報、権利擁護、商品サービス)を1958年のAARP設立と同時に確保しています(アメリカのNPOの特典は内国課税庁の税制の特典において表示されます。日本のように法人格の確保が難しい国ではありません。)ただし、AARPの成長にともない、その事業が税制上の特典がある501C-4にそぐわないのではないかという激しい攻撃を受けてきました。ことにAARPは民主党支持ではないのかという評価があり(確かに、民主党のクリントンは多くのAARP会員の支持により劣勢を跳ね返して当選しました)、共和党側からは「積年の恨み」を反撃したいといこともあり、AARPの会長や専務理事が国会の参考人として呼ばれ、追求をうけることもありました。そして、最終的はつぎのような合意で折り合いをつけました。
 AARPはメンバーへの商品やサービス提供を直接にはしない。そして、それは第3者(営利企業)からの供給とし、税はその法人が利益に応じて支払う。AARPは非営利団体であり、非課税団体であるために、AARPに直接的に関係のある商品とサービスについては営利法人である子会社を設立しました。したがって、この子会社の収入には一般の企業と同じように課税されます。その子会社はASI(AARPサービスINC)といい、ロイヤリティをAARPに支払うことになります。子会社以外に提携する企業からもAARPの会員に販売をしますが、それは企業と会員個々人の契約であり、AARPが介在するわけではありません。
AARPはそれ自体が巨大なマーケット(会員数3600万人)をもっているわけですから、直接に商品開発をして販売したほうが利益を得られるのではないかという議論はAARP内部で激しくおこなわれています。ただ、このことを実施するとAARPがNPOであるのかということが社会的に問題視されるという危険性をおかすことになり、この道は選択しないことにしました。日本のようにNPOの税制の特典がない国では問題になりませんが、税制がNPOのモラルを規定している面を伺うことができました。
 これ以外に、「AARPファンデイション」(日本でいう財団法人)という別法人を持ち、これは501C-3の資格を確保しています(つまり、AARPは一般のNPO法人と非課税特典のあるNPOと営利企業の3種類の法人格をもち、使い分けているわけです)。この指定でおこなうと税務上の有利な条件によって活動できます。このファンデイション(基金)は、援助をする財団であり、独自に募金もします。そして、津波の救援などもおこない、50歳以上のトレーニングプログラム(職業、税金など)、また一般の助成や訴訟費用の負担もします。この訴訟援助はファンデイション(基金)に所属する専任の弁護士がおり、また、訴訟費用の支援もおこないます。この分野について大掛かりなものについてはAARPの本体からも支援する場合があり、海外においても、高齢者差別訴訟についてEUに援助をおこなったりしています。
子会社や関係会社からのロイヤリティについては、AARPのロゴを使うことや、メンバーからの買い上げがあった場合に売り上げに応じて支払うなどの方式をとっています。
 以上のようにしていますから、2200万部(夫婦には一冊送付)の発行を誇る『AARPマガジン』の広告収入などのAARPの本体の事業には課税されないようになっています。
 そして、このようにしたために、企業の中にはAARPとコラボレイトすることが事業の成功に必要だと感じる企業が多くでてきており、AARPに対してAARPの利益にもなり、自社の利益になる具体的な事業の提案をするようになってきました。このように、AARPの目的は社会を変えることですが、企業などの世の中の価値観も変えてきているのです。
 ところで、NPOと企業との付き合い方は難しいのですが、AARPと企業との関係については、つぎのようにしています。AARPとつきあう企業は同一産業に1社ではなく複数でも可能です。ただし、1商品は1社に限っています。たとえば、保険でいえば、自動車保険、介護保険、生命保険などの1種については1企業だけですが、保険会社とは何社ともつきあっています。また、このことは会員からの商品発注とも連動しており、1商品に1つのオンラインが接続されており、そこに電話やホームページで依頼することが便利になるシステムを組んでいます。
 企業との商品の契約関係の期間は、有期にしてありますが、その途中でも見直しできるようにしてあります。
 
[NPOの職員]
 AARPを訪問して、いつも関心するのは、その職員の水準の高さです。今回のAARP本部のレクチャーをコーディネイトしてくれたのは、人事異動で新しく着任したばかりのプラドリーさんでした。彼は政治学の修士で、元は国会議員の秘書をしたり、国務省(日本の外務省)につとめていました。そして、AARPにヘッドハンティングされたのです。待遇についても一般企業よりは優遇されている、と言っていました。つまり、仕事は責任があり大変だが、自身が民間企業や官庁に勤めるよりは優遇されているというように受け止めてよいようでした。
 そして、彼自身の問題意識は、インターナショナルからドメスティックに焦点を移動させており、目下、つぎのようなことに興味をもって、博士論文に挑戦するかもしれないと言っていました。彼の興味は、?アセスティッドリビング(自力で最低程度の生活ができる人々へ提供している住宅・生活支援サービス)の基準を全国化すること、?インタメディアリーケア(様々な分野が協力・提携して1人の人の介護・看護・医療などのサービスを提供すること)、?ナーシングホーム(日本で言う特別養護老人ホーム)。
 つまり、彼にとっては、労働条件の有利さがあるわけではなく、「社会を変える」ことを実感できる仕事であり、かつ、自分自身の問題意識を発展さえたり、検証できる場がAARPなのです。
 あわせて、彼はつぎのように説明していました。NPOは一般の職員は企業と比較して同じか少しよいくらいの団体が多いのです(ただし、このことは大きなNPOに当てはまることで、小さなNPOは一般企業の水準よりも低く抑えられています)。しかし、幹部になると報酬が少なくなります。AARPの専務理事(CEO)の年間報酬は40万ドル(4800万円)程度ですが、同じ規模の一般企業のCEOなら100~150万ドル(1億2千万円~1億8千万円)を受けてもおかしくないにもかかわらず、です。(当然、理事は無報酬です。)私個人は40万ドルでも多いと思っていたのですが、アメリカ人の感覚からすれば低いということなのです。これはNPOが企業や官庁と渡り合えるポジションを獲得しているからです。
 このような優秀な職員を、AARPは今後5年の間に500人ほど増やすかもしれないというのです。日本のNPOからすればうらやましいかぎりです。AARPの活動がすべて日本に適応できるとは言いませんが、こうしたAARPのマネジメントから、日本のNPOが何を学び、実践しなければならないのかを考えさせられました。

[追記:アメリカの個人情報]
 AARPの会員にはAARPと提携している企業からDMが直接にいきますが、これは入会にあたって個人情報についての了解を得ており、その枠内で事業をやっているからです。ただし、実際にたくさんのDMがきて嫌な場合には、それを拒否することもできます。この拒否は、AARPのホームページを通じてできるようにしてあります。


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